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Column

代表理事コラム
2023.08.01

代表理事コラム特別編―法務省ガイドラインの公表

弊協会は昨年の設立以来、関連する多くの政府機関やステークホルダーの皆様と対話をさせて頂きながら、「契約レビュー業務に関するAI・テクノロジーの発展と普及を通じて、法曹界及び企業法務業界におけるAI・テクノロジーの活用を推進し、もって我が国の法務力の向上と国際競争力の強化、ひいては司法アクセスの向上による豊かな社会を実現」するという弊協会の目的達成に向け邁進して来た。

そして、そのような活動の中で、AI契約レビューサービスと弁護士法72条の解釈を明確化し、契約レビューサービスを提供する事業者及びユーザー双方が安心してより良いAIサービスを開発・利用できるようになり、その結果として日本における法務のDXの推進や、日本企業の国際競争力の強化等の公益を実現したい、というのは、一つの中核的目標であった。

昨年11月11日に内閣府規制改革推進会議 第2回スタートアップ・イノベーションWG(以下「2022年WG」という。)にて 「契約書の自動レビューと弁護士法」の議事録が公表され、 法務省から現在提供されているAI契約自動レビューサービスについて、 適法の可能性が高い旨の回答等がなされ(https://ai-contract-review.org/389/)、法務省が、AI契約レビューサービスと弁護士法72条の解釈を明確にするガイドラインを公表することになった点は、まさにこの観点からすれば、一つの重要なマイルストーンであった。

そして、本日、2023年8月1日に、法務省は「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」(以下「法務省ガイドライン」という。)を公表した。( https://www.moj.go.jp/content/001400675.pdf )これによって、弊協会加盟企業を含むがこれに限られない現在日本において提供されているほとんど全てのAI契約自動レビューサービス(以下「通常のAI契約自動レビューサービス」という。)が適法であることが確認されたと考える。即ち、法務省ガイドラインは、以下のとおり、主に、事件性と鑑定等該当性の2点について、通常のAI契約自動レビューサービスが適法であることを述べている。

まず、事件性について、法務省ガイドライン2は「同条の『その他一般の法律事件』に該当するというためには、同条本文に列挙されている『訴訟事件、非訟事件及び…行政庁に対する不服申立事件』に準ずる程度に法律上の権利義務に関し争いがあり、あるいは疑義を有するものであるという、いわゆる『事件性』が必要であると考えられ、この『事件性』については、個別の事案ごとに、契約の目的、契約当事者の関係、契約に至る経緯やその背景事情等諸般の事情を考慮して判断されるべきものと考えられる。」としている。この点は、2022年WGで法務省が説明したものと同じである(https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2210_01startup/221111/startup02_03.pdf)。その上で、AI契約自動レビューサービスの文脈においては、「いわゆる企業法務において取り扱われる契約関係事務については、通常の業務に伴う契約の締結に向けての通常の話合いや法的問題点の検討は、多くの場合『事件性』がないとの当局の指摘に留意しつつ、契約の目的、契約当事者の関係、契約に至る経緯やその背景事情等諸般の事情を考慮して判断されるべき」としている。即ち、通常のAI契約自動レビューサービスは和解契約を対象としておらず、まさに多くの場合「事件性」がないとされる「通常の業務に伴う契約の締結」を対象としている。そこで、法務省ガイドラインは、事件性の観点から通常のAI契約自動レビューサービスが適法だと述べるものである。

次に、鑑定等該当性について、法務省ガイドライン3は「チェックリストにおいて一致又は類似する条項・文言が個別の修正を行わずに表示される」ものや「チェックリストと紐付けられた一般的な契約書等の条項例又は一般的な解説や裁判例等が、審査対象となる契約書等の記載内容に応じた個別の修正を行わずに表示される」か、又は「審査対象となる契約書等の記載内容の言語的な意味内容のみに着目して修正されて表示される」場合については、通常鑑定等には該当しないとしている。通常のAI契約自動レビューサービスは、いわゆるチェックリストとアップロードされた契約書の間での文言の言語的意味内容に基づく突合・照合が行われる。その上で、一致・類似したものがそのまま表示される(例えば、秘密保持契約をレビュー対象としたときに、秘密情報の定義に関するチェックリストとの関係で、契約上秘密情報の定義が記載された箇所が強調されて表示される)、又は一般的な契約書等の条項例若しくは一般的な解説や裁判例等(例えば、秘密情報とは何でどうして定義が必要かといった情報や秘密情報を定義する場合のサンプル文例)が表示される。そこで、法務省ガイドラインは、鑑定等該当性の観点から通常のAI契約自動レビューサービスが適法だと述べるものである。

なお、3点だけ補足したい。まず、準備しているサンプル条項の表記が「受領者」「開示者」とあっても、アップロードされた契約が「甲」「乙」だとすれば、それを元に言語的な意味内容のみに着目して修正され、例えばサンプル条項の表記が「甲」「乙」と変更された上で表示されるものがある。これはまさに法務省ガイドラインが「審査対象となる契約書等の記載内容の言語的な意味内容のみに着目して修正されて表示される」としたものであり、これも含めて適法である。

また、上記のサンプル条項の表記を変更する際に、ChatGPT等の生成AIを利用するものも見られるが、法務省ガイドライン頭書末尾の「いわゆる生成AIを用いたサービスの提供と同条との関係についても、原則として同様の枠組みで判断されるべきものと考えられる。」からすれば、ChatGPT等の生成AIを利用して「受領者」「開示者」を「甲」「乙」に変更するものも同様に適法である。

最後に、弊協会は「契約レビューテクノロジー」と銘打っているものの、加盟各社の中には契約作成や契約管理に関するプロダクトを開発・提供している会社も多い。このような観点からは、法務省ガイドラインが契約作成や契約管理についても「シロ」の範囲を明確にしたことは、大変有意義である。

弊協会理事長としては、AI契約レビューサービス等と弁護士法72条の解釈を明確化するためにご尽力頂いた法務省をはじめとする関係省庁の皆様、日弁連を含むがこれに限られないステークホルダーの皆様に対して心より感謝する次第である。

加えて、法務省ガイドラインでは明らかに「シロ」の例が例示されたに留まる(法務省ガイドライン頭書の「各例は、当該事項に関して明確に判断し得る具体例を参考として示したものである」)ところ、法務省ガイドラインで明らかに「シロ」と記載されていない部分であっても、適法と解すべき場合の整理について、引き続き弊協会内において検討を進めていきたい。

以上

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